つぶやき。

都内某大学に通う医学生。考えたまま書きます。

不安を批判に変える正義感

 新型コロナウイルスの第1波は少しずつ収束しつつある。東京都での22日の新規感染者は3人と緊急事態宣言後最少となった。過去7日間の全国感染者平均も34人と、確実に落ち着いて来ているし、何よりも全感染者中に占める回復者の割合がかなり上昇してきたのも、まずは医療崩壊をギリギリ免れたと言っても良いだろう。

 少しずつ気が緩み始めた方も多いだろう。経済活動再開のためにも人の動きが徐々に増えていくことは、悪いことではない。感染者が少なくなっても、経済が回らなければ、失業者で溢れ、路頭を迷う人が現われて、最終的にはコロナ死亡者よりも自殺者が増えてしまうかもしれない。現に、日本の失業者はここ最近で1万人を突破した。またWHOによるとコロナによる小児予防接種の延期の影響で、世界で1日あたり6000人の子どもが亡くなる可能性があるという。

 

 さて、未知の感染症への不安から問題となっているのが、「自粛警察」と呼ばれるような行為、、感染者への心無いバッシングや個人情報の許されるまじ公開、そして医療従事者への偏見差別だ。この状況の中、飲食店業界などは窮地に追い込まれていることだろう。感染予防に全力に取り組みながら、そして自分も感染してしまうかもしれないという恐怖と戦いながら営業を続ける店舗への脅迫文や営業妨害は、店舗を運営するスタッフ、オーナー、そして全ての飲食業を営む人々への暴徳でしかない。感染者の多くは、人並みに気をつけながら生活していた人々だろうし、医療従事者は感染と隣り合わせの状況の中、必死に救命活動を行なっている。私の先輩の研修医の先生からも、直接的に感染者病棟で働いているわけではないが、マスクやガウンなどの衛生用具の不足により、厳しい状況にあるという意見をうかがった。

 

 未知の感染症への不安はどうしても他人への偏見や差別で解消されようとする。人間はどうしても脳の構造上、自分と間違った意見や行動に対して、批判・非難することで正義感や快感を得る。これは芸能人の不倫が報道されたときに、SNSでバッシングする行為が1つの例である。私は未婚者だし、不倫に対して意見を述べる立場ではないのかもしれないが、不倫は悪いこととはいえ、日本の法律上刑罰に値することではないし、ほとんど無宗教の日本にとって、宗教観念を破ることでもなければ、不倫したからといって犯罪者になるわけでは全くない。しかし、人気芸能人が不倫スキャンダルを報道されると、顔を見たこともないような人がSNSであたかも当事者のようなバッシングを浴びせる。

 今回の自粛警察による心無い行為も、この心理に由来するものであろう。「自分がこれだけ感染対策をしているのに、酒を提供しているとは何事だ。」「公園で子供を遊ばせるんなんて何事だ。」心無い行為なんて可愛いものではなく、場合によっては刑事罰となるような事例もあった。子どもが多く集まっている公園の砂場に刃物やガラスが巻き散らかされたという事案もあった。豊島区職員が自粛警察で飲食店を脅迫し逮捕される事件も今朝報道された。

 

 4月中は日本全国で感染のピークにあり、日本人のコロナに対する危機感もかなり団結していただろう。しかし現在、緊急事態宣言も1都3県と北海道以外解除され、全国的に危機感の一致がなくなってきている。もう大丈夫だろうと普段に近い生活に戻りだしている人もいれば、まだまだ不安が残り、今でもスーパや犬の散歩などの必要最低限の外出しかしていない人もいる。この国民の意思のばらつきは、今後さらに拡大する可能性が高いし、地域によっても差が出てくるだろう。

 自分と異なる考えはどうしても許容できないことが多い。今は家族の中でも少しずつ危機感の違いが浮き彫りになる時期である。1億人いれば1億人の考え方があり、それぞれの危機感や不安や1億通りあるだろう。未だ緊急事態宣言が解けていない1都3県+北海道も宣言解除向けて様々な策を練っている。その内容はそれぞれ少しずつ違う。どうしても批判や批評がしたいなら、近所の飲食店なんて狭い視野ではなく、もっと大きな枠を見つけ、国や都道府県の対応に耳を向け、自分なりに考えてみたらどうか。